協調的安全保障、軍備管理と軍縮

グローバル・アウトルック No.420

NATOは崩壊しつつあり、EUは弱体化– 結構なことだ!

ハルバート・ウルフ

どちらの組織も、自己改革し、米国の影響から脱却する必要がある。

北大西洋条約機構(NATO)の危機は、トランプの破壊的政策から始まったわけではない。グリーンランド併合というトランプの願望は、ますます正当性を失い帝国主義化する米国の政策に見られる理不尽な展開の最新事例に過ぎない。歴代の大統領たちも、欧州に背を向けて他の地域に目をやった。バラク・オバマの「アジア回帰」やブッシュのイラク戦争をめぐるNATO内の意見対立は、このような米欧間の亀裂をよく表している。このようなシグナルは、確かに欧州に届いていた。しかし、過去数十年間、米国への依存から脱却するために有効な策を講じようという欧州内の政治的意思と結束は十分ではなかった。

防衛費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げよというトランプの要求は、すでに欧州の人々にとって警鐘となっていたはずだ。NATOの欧州側が抱える防衛上の弱点を冷静に分析すれば、問題が資金不足ではないことはすぐに分かる。NATOによれば、欧州のNATO加盟国は過去10年間に約3.5兆ドルを支出している。これは決して少ない額ではない。問題は、これらの資金がいかにも欧州的な狭量さによって支出されていること、すなわち説得力のある共通の戦略がないまま各国がバラバラに支出していることだ。その結果、軍備調達の重複による無駄が生じている。各国の武器製造業者は歓喜している。

欧州諸国の政府は、自分たちの強みに目を向けて一致した対応を見いだすのではなく、トランプの命令に屈した。トランプの機嫌を取り、ウクライナへの支援を続けてもらうために、欧州のNATO加盟国は、近いうちに望まれた通りGDPの5%を防衛費に配分し、もちろん米国から武器を購入する意欲があることを示唆した。マルク・ルッテNATO事務総長を筆頭に、ワシントンにゴマをする欧州の行列はますます長く伸びている。

そして今度はグリーンランド併合を望むというトランプの宣言、同盟国に対する米国のあからさまな攻撃によって、このパートナーであるはずのワシントンの政権は信頼することができないという認識が生まれつつあるようだ。欧州諸国は、米国のカリブ海における砲艦外交、他国への脅し、影響力拡大の試み、そして植民地主義的野心から明確に距離を置くべきである。

今こそ、欧州防衛同盟を構築することによって欧州の独立を実現するために行動するべきである。この同盟は、米国、中国、ロシアによってさまざまな形で培われた地政学的競争や帝国主義的野心に導かれるべきではない。宿命のようにワシントンの方を見つめ、支離滅裂な大統領の次の愚行を待つのではなく、欧州の独立または自律を実現することが不可欠である。それによって、トランプ政権とロシアのいずれに対しても欧州の立場を強化することができる。これは新しい発想ではない。早くも1978年に欧州議会は、EU内で防衛協力を強化することを求める最初の報告書を発表している。

軍事専門家は繰り返し、米国がいなければ欧州はロシアに対して軍事的に劣ると強調する。確かに、いくつかの分野(例えば防空、偵察・衛星技術、サイバー防衛)では格差がある。とはいえ、ロシア軍と比較して欧州を過小評価するのは間違っている。ウクライナに対する全面侵攻から4年以上経った今も、ロシア軍はおおむね軍事的成功を収めていない。ウクライナのインフラを容赦なく破壊し、何十万人もの兵士の命を使い捨てにしてようやく、ロシア軍は限定的な占領地拡大を達成した。団結して機能を果たす欧州防衛同盟があれば、このようなロシア軍が優位に立つなど到底できないだろう。決め手となるのは、欧州の団結である。しかし、ウクライナの支援においてさえ、それが欧州の利益を守るためでもあるのに、欧州は一枚岩ではない。ロシア国境から遠くなるほど、彼らが誇る欧州の価値を守るために全力を尽くそうという意欲が低くなる。

欧州各国がそれぞれ独自に多額の資金を軍に投入し続け、ひいては金を無駄にする代わりに、一貫した欧州防衛構想が必要である。戦争能力を論じてばかりでは、防衛上本当に必要なことから目をそらすことになる。ワシントンから放たれた警告射撃は現在、真に「欧州の」と名乗るに値する欧州安全保障・防衛政策を発足させるほどの衝撃をもたらしているだろうか? 過去何十年かの経験を踏まえると、いわゆる「時代の転換点(ツァイテンヴェンデ)演説」の後でさえ、その点には疑問が残る。

EUは権力という言語を身に着ける必要があるか?

EUの経済成長は長らく貧血状態にあり、停滞し続けている。依存関係は増加しつつある。先端技術は米国から持ち込まれ、重要鉱物は中国から輸入され、化石燃料は専制国家から輸入されている。欧州は地方化されたままである。欧州中央銀行の前総裁であるマリオ・ドラギは、EUの弱点として競争力の欠如と生産性の低さを挙げた。しかし、米中との経済競争や軍拡競争に走ることは、本当にEUにとって実行可能な戦略であり得るのか? このような地政学的競争において、欧州は本当に第3の主要勢力となるべきなのか?

欧州は、権力という言語を身に着ける必要はないし(それが必要だという声は高まっているが)、まして軍事力という言語を身に着ける必要は全くない。世界政治に校庭のいじめっ子はこれ以上必要ない。第3の地政学的プレイヤーとして振る舞おうという野心ではなく、謙虚さが求められ、これまでとは別の経済モデルが必要とされている。EUは、ハイパー資本主義の(今や帝国主義的な)米国と独裁主義の中国のいずれかを選ぶ必要はないし、ましてこれら二つの超大国に追いつくことを目指す必要もない。

もちろん、保護主義的関税を導入したワシントンの経済政策は影響を及ぼしており、その点では、必要とあれば必需品サプライチェーンを途絶させてまで世界的影響力を得ようとする中国の政策も同様である。覇権国家というものは常に自国の利益のために経済的圧力を行使したがるということが、研究によって示されている。トランプはこのような圧力を熱心に支持し、中国もまた躊躇なくこれを行使する。依存する側の国は、このような圧力行使に完全に対抗することは決してできないだろうし、たとえ条約によっても無理だろう。従って、勢力争いに加わり、そうするために権力という言語を用いるのではなく、貿易管理制度のような欧州の強みを賢く利用するべきだ。欧州は無力ではない。

欧州がミドルパワー(中堅国)の地位を追求すること(ダボス会議でカナダのマーク・カーニー首相が説明したように)の何がいけないというのか? 中堅国は他の中堅国、とりわけグローバルサウスの中堅国と対等な立場で協力を行うことにより、現行の環境において自らを最善の立場に位置付け、自らの利益を追求することができる。それは自由貿易だけの話ではなく、何よりも公正な貿易の話である。また、外部勢力への依存を減らすため、欧州はその産業基盤を変革し、再生可能エネルギーの比率を高めるべきである。また域内市場を強化するべきである。欧州の価値を守りたいのであれば、強力な福祉国家(かつての北欧諸国のような)を築くことが極めて重要である。これこそが、大国からの政治的自律を維持し、彼らの影響を抑え、右傾化の潮流から民主主義を守るための最善の基盤である。

ハルバート・ウルフは、国際関係学の教授であり、ボン国際紛争研究センター(BICC)元所長である。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学・開発平和研究所の非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所の研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会の一員でもある。