民主主義の危機と課題

グローバル・アウトルック No.300

ハシナ後のバングラデシュにおける信頼、民主的関与、統治の再構築

イムラン・アフメド

シェイク・ハシナ政権の崩壊は、民主主義の価値観と真の代表制への希求に根差した新たな政治文化への希望をもたらした。しかし、今後の道のりには、選挙の実施や政治プロセスの回復だけではなく、はるかに多くの取り組みが必要になる。長年にわたる権威主義的支配や、それ以前から積み重なってきた未解決の不満の歴史が残した深い傷を癒すことが、国家的課題の最前線に据えられなければならない。

ハシナ政権の遺産について国が検討を加える中で、彼女の政治体制の特徴である秘密裏かつ抑圧的なやり方に関するさらなる詳細が明らかになりつつある。反対意見を抑え込むために拷問や隔離が用いられていた秘密拘禁施設に関する衝撃的な証言が、今や明るみに出つつある。これらの新事実は、アワミ連盟政権がこの国の治安機構を広範に掌握していた実態を露呈するとともに、強制的統制のネットワークが社会全体に浸透していたことを示している。

そのような組織的抑圧は、バングラデシュの集団的心理に深い傷を残している。恐怖、不信、脆弱性が蔓延する状況は、市民社会のまさに根幹を破壊した。本来奉仕するべき国民に対し、国家権力が武器として行使されるとき、それは社会を支える信頼の絆を弱体化させる。

さらに、正義や手続き、あるいは公平性よりも政権への忠誠心が重視される体制では、多くの場合、市民は疎外されたと感じ、自らの居場所に不安を覚える。このような状況では、参加よりも生き残ることが優先され、反対意見を表明することは危険と同義になる。多くの人々は自身の声を沈黙と安全に引き換え、体制に逆らおうとした者はしばしば深刻な状況に直面した。抵抗した者たちの家族もまた、不確かさと恐怖の重圧に耐えるしかなかった。

かつてはシェイク・ムジブル・ラフマンのもとで解放の象徴であったアワミ連盟は、ハシナのもとで抑圧と同義の組織へと変貌した。バングラデシュ独立の英雄としてのラフマンの遺産は、歪められ、権威主義的な行き過ぎを正当化するための道具と化した。支配と闘った党は、徐々にかつて自らが対峙していた勢力と同じようになり、反対派を沈黙させ、支配を強固にするための盾としてラフマンのイメージを利用した。

現在、暫定政権は、バングラデシュがこの動乱の時期を乗り越えられるよう舵取りをするという困難な任務を課せられている。蔓延する政治的暴力のただなかで法と秩序を回復することは、多くの喫緊の課題の一つに過ぎない。同じように重要な課題は、公共サービスの継続を確保し、経済の不安定性に対処し、特にマイノリティーの権利に関連して緊張が高まる中で社会的結束を守ることである。しかし、恐らく最も重要なことは、この政府が、安定した民主的な未来の基盤を築き得る自由で公正な選挙に向けて国を整えなければならないことだ。

しかし、バングラデシュの政治情勢は今なお深く亀裂が入ったままだ。ハシナ政権下の長年にわたる抑圧は、政治勢力の間に和解しがたい分断を固定化させ、国家機関に対する国民の信頼をむしばんできた。司法、官僚機関、治安機関はいずれも政治的介入によって毒されており、これらを脱政治化し、正義と統治の中立的な守り手としての役割を回復させなければならない。この課題は緊急であると同時に困難であるが、それなくしてはいかなる政治的移行も脆弱なままであり、バングラデシュの過去を苦しめてきた同じ力に再び左右されかねない。

従って、この国を安定させるには、単なる秩序の回復以上のことが必要である。良い統治の基盤を根本から再構築し、透明性に取り組み、恐怖を感じることなく対話、政治的参加、和解ができるような政治文化を育む必要がある。しかし、このプロセスに内在する課題は、この国の主要政党に対する国民の疲弊感が高まっていることによって、さらに悪化している。腐敗、政治的内紛、破られた約束により、多くの人びとは、アワミ連盟に代わる野党勢力の動機や能力に対して懐疑的になっている。

国民和解に向けた困難な道のりを始めるにあたって、ハシナ政権がもたらした弊害を十分に認識することが不可欠である。バングラデシュに民主的未来を再構築するためには、単なるリーダーシップの交代以上のものが必要である。国家機能の健全性を回復し、真実を語ることと説明責任を通して社会のより深い亀裂に向き合い、権威主義的支配のもとで長年抑圧されてきた価値観である民主的関与と国民の信頼という文化を育むことが必要になる。

実際、和解と政治改革は民主的プロセスと無関係ではなく、不可欠のものである。それがなければ、民主的関与は表面的で短命のものになる恐れがある。社会のより深い亀裂に向き合うことなく選挙を実施した場合、前進しているかのような幻想が生まれるかもしれないが、未解決の不満や正義の欠如が政治システムへの信頼を損ない続けるだろう。

とはいえ、バングラデシュにおける政治的分極化は、合意に基づく和解と改革のアプローチを難しくしている。また、継続的な暴力や経済的苦境も、喫緊の問題が山積する中で長期的な癒しに目を向けることを困難にしている。現政権にとって当面の課題と長期的課題のバランスを取ることは、なお大きな試練である。しかし、こうした障害にもかかわらず、これらの課題にあわせて取り組むことは、バングラデシュにおいて民主主義に向けた意味のある持続的な前進を実現するうえで、なおも極めて重要である。

イムラン・アフメドは、シンガポール国立大学南アジア研究所のリサーチ・フェロー。ニューイングランド大学で博士号を取得した。これまでに South Asia や Third World Quarterly を含む主要な政治学・アジア研究誌に論文を発表しており、また Religion, Extremism and Violence (Palgrave Macmillan、2022年)の共同編者も務めている