気候変動と紛争

政策提言 No.247

アジア太平洋地域における気候、平和、安全保障、地政学的協力の推進

マイケル・コページ, ジャナニ・ビベカーナンダ

2025年7月14~15日

キャンベラでのワークショップ報告書

マイケル・コページ、ジャナニ・ビベカーナンダ

ワークショップの概要

気候崩壊は、アジアおよび太平洋全体の平和と安全保障を脅かしている。しかし、そのようなリスクの範囲、それらに対処する政策的解決策は十分に評価・検討されていない。

このようなギャップを踏まえ、またこれらのリスクは地域や機関を超えた協調的対応が必要な規模であることを認識し、2025年7月に戸田記念国際平和研究所、adelphi、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の気候・安全保障政策センターが開催したワークショップでは、アジアおよび太平洋における気候、平和、安全保障の相互関連性という十分に検討されていないテーマを取り上げた。

ワークショップの目的は、気候、平和、安全保障に対する取り組みを結び付けるための優先事項や解決策について、アジアおよび太平洋各地の地域専門家や機関代表らとの話し合いを促進することであった。これは、気候、平和、安全保障を結び付けるうえで、具体的かつ地域に根差した政策やプログラムの選択肢を生み出す機会を特定するために役立つものとなった。

開会の挨拶

ワークショップ開会の挨拶を行った戸田平和研究所のケビン・クレメンツ所長は、激化する気候ハザードに緊急に取り組む必要があることを強調した。それらは、ナショナリズム、孤立主義や、気候変動政策の後退に向かう世界的シフトと交差している。このようなダイナミクスのせいで、気候変動の影響を最も受けている太平洋島嶼国のような国々は、対策を講じるパワー、能力、責任が最も大きい国々、特に米国や中国と比較して、グローバルな気候アジェンダを決定する能力がますます制限されていると述べた。さらにケビンは、気候リスクを管理するために国際協力が継続的に必要であると指摘しつつ、安全保障制度の中で気候変動対策立案の統合を強化するために国際規範を再形成すること、そして、排出削減と気候リスク対策において極めて重要な役割を果たす中国とのさらなる対話を強く求めると呼び掛けた。

adelphiの気候外交・安全保障プログラムの責任者であり戸田記念国際平和研究所の上級研究員であるジャナニ・ビベカーナンダは、ワークショップの議論の設定を説明した。彼女は、気候、平和、安全保障をめぐる国際的議論における経験を踏まえ、気候変動が安全保障と安定性に及ぼすリスクに対抗し、アジア太平洋地域における平和と協力を構築するための、具体的な政策やプログラム提言の重要性を強調した。有効な解決策を推進するには地域の協力と協調を強化する必要があり、実際にアフリカのパートナーと進めてきたそのような解決策の進捗状況を挙げながら、アジア太平洋地域においても気候変動が平和と安全保障にもたらすリスクに対して的を絞った有効な対応を取る必要があることを強調した。

ASPIの気候・安全保障政策センターの責任者であるマイケル・コページは、オープニング・セッションの結びとして、地域の声や視点を、オーストラリアを含む各国政府当局に届けることの重要性を指摘した。彼は、気候の影響が激化しつつある現状を踏まえ、リスクを事前に予側し備えるための知識と能力のある専門家や関係者を結びつける点において、このワークショップが希望と前向きな機会をもたらすことを強調した。

基調講演パネル: アジア太平洋における気候安全保障リスクと地政学的緊張

基調講演パネルは、気候問題をアジア太平洋地域における平和と安全保障への脅威として捉えるという観点から、ワークショップ全体を通じた重要な議論テーマの方向性を示した。具体的には、同時並行的に進行する複数の差し迫ったリスクの存在、アジア太平洋地域のさまざまな進捗の度合いを欧州やアフリカと比較する視点、さらに地域や文化によってレジリエンスがどのように位置付けられ、アプローチされているかという重要な違いを明らかにした。

議論は、いくつかの主要な問いによって進められた。

  • アジア太平洋地域において最も差し迫った気候関連の安全保障リスクは何か?
  • これらのリスクは、資源をめぐる競争や戦略的影響といった地政学的緊張とどのように交差するか?
  • 気候外交は地域の緊張緩和にどのような役割を果たすか?

食料安全保障と熱リスクは、気候変動によって生じる差し迫ったハザードであり、地域の平和と安全保障に対するリスクと認識された。一方、サブ地域ごとに異なるレジリエンスへのアプローチを踏まえ、それに沿った気候政策の実施は、特に太平洋地域においてバランスを取るのが難しい核心的課題と認識された。

非常に重視された点は、コミュニティーに対する政策対応を、太平洋地域的なレジリエンスの理解に根差したものとすること、自立を損ない、開発パートナーへのさらなる依存を招きかねない解決策については慎重に見直す必要があるとの点である。これには、重要鉱物開発(特に深海採掘)を経済成長の原動力として活用することと、一方で深海採掘が、太平洋島嶼国のコミュニティーがレジリエンスを支える基盤として依存している脆弱な海洋生態系に及ぼし得る影響との間の緊張も含まれる。気候移住に対する見解では、移転したコミュニティーが、経済的レジリエンスだけでなく、文化的、精神的レジリエンスをいかにして形成していくことができるか、そして移転の取り組みによってメンバーを失ったコミュニティーに及ぼす影響についても懸念が浮き彫りになった。

オーストラリアは地域内のパートナーと見なされるために「太平洋ファミリー」という表現を使っているが、その一方で、化石燃料の輸出を続けている現実と対比され、将来の気候リスクを増幅させる要因を生み出しながら、地域を気候影響から守るリーダーになることの難しさが示された。

欧州、アフリカ、太平洋地域では気候と平和や安全保障との関連付けに対するアプローチがより確立されているのに対し、アジアやオーストラリアのような国々では、そうした議論が始まったばかりであるという点も、明確に対比された。近年、国家レベルのアセスメントを通じて、これらのリスク評価と対応を強化しようとする取り組みがある一方で、気候、平和、安全保障の連関に対処する解決策を推進させる機運が低下していることへの懸念が表明された。気候外交におけるオーストラリアの役割と、信頼できるパートナーとして解決策を推進する能力は、化石燃料輸出に対する国際的需要が減速するなかで、国内の脱化石燃料への移行をいかに持続させるかという観点で言及された。

議論では、気候レジリエンスに重点を置くことは、緊張関係がある状況下でも、各国が協力と平和を推進させることが可能になる一方で、同様に、富裕国の地政学的利益を活用することで、気候レジリエンスの強化を促すこともできるとの見方が示された。これを成功させるには、さまざまな国がどのように気候リスクを安全保障上のリスクとして位置付け対応しているか働きかける必要がある。その際、気候を「非伝統的」安全保障問題と見なすことの限界に留意し、それと同時に、インドのような国々が気候をハードな安全保障問題とは完全に別の環境問題として区別していることにも留意しなければならない。太平洋地域においては、海外の利害関係も含め、レジリエンス構築の機会促進が強調された。これは、レジリエンスの源泉(食料安全保障と経済的回復をもたらす漁業資源、分散型太陽光発電など)を支援および強化する意欲を持つインドのような国々と連携する機会であると同時に、各国が気候変動を国内政治の文脈とは異なる、他国との状況における平和と安全保障へのリスクとして捉える機会でもある。さらにこれは、地域間の協力を高める機会をもたらす。例えば、ドイツとインドを結び付け、相互の関心分野を軸に、気候リスクとレジリエンスの観点から気候と安全保障をめぐる対話を促進するといった取り組みが挙げられる。

開発の哲学的土台に異議を唱えることの重要性について多くの意見が出された。それらが、気候、平和、安全保障に関する計画立案に適用されるからである。成長を中心に据える西洋的な開発哲学と、関係性を重視する太平洋地域固有の哲学との違い、特に気候移住のようなダイナミクスに適用された際にもたらされる差異が認識された。そのうえで、太平洋地域にふさわしい新たな開発モデルを策定し、コミュニティーと土地や海との関係性を全体的に捉えるアプローチに重点を置くことが提案された。これによって、現地の関係性の哲学に基づく新たな倫理的メカニズムを促進することができる。それは、不適応な対応で問題を悪化させるのではなく(例えば海底採掘は、経済的レジリエンスを高めるという意図があるにもかかわらず、太平洋のコミュニティーのレジリエンスを損なう恐れがある)、レジリエンスをよりよく把握し、強化することにつながると議論された。

分科会セッション1: 気候安全保障と地政学に関する地域的視点

気候安全保障と地政学に関するサブ地域的視点を検討し、リスクに対処し得る共同の政策やプログラムの骨子を作成するため、三つの分科会が同時開催された。分科会はそれぞれ、太平洋諸島、南・東南アジア、オセアニア(特に、より広範な地域におけるオーストラリアの役割や対応に重点)に重点を置いた議論を行った。

太平洋諸島

太平洋諸島に関する議論では、気候リスクがどのように顕在化しているか、地政学的動向が気候リスクへの対応をどのように形成しているか、そして共通の課題に対処するために地域協力を強化する機会について焦点が当てられた。

淡水資源の喪失、海面上昇、海岸浸食、文化やアイデンティティーの喪失、トラウマや精神的ストレス、周縁化、コミュニティーの結束の喪失、さらには、それに伴うコミュニティーの移動といった気候リスクが、コミュニティーの重大リスクであると同時に、地政学的なリスクでもあることが指摘された。これらのリスクは、コミュニティーが移転を余儀なくされた場合には、市民権をめぐる問題に関わるだけでなく、地政学的アクターによる別の思惑を背景に、関与や競争が変動的に生じるという点も問題視された。

外部主導の援助の提供者と優先事項をめぐる緊張関係(米国の撤退、中国の関与をめぐって浮上した地政学的懸念によって複雑化している点)が、特に現地のニーズや視点を満たすという観点から指摘された。これには、短期的解決策への過度な依存や、ニーズに即していない政策の優先事項(例えば、コミュニティー主導の長期的解決策ではなく、再生可能エネルギー・プロジェクトへの短期的投資が優先されること)、さらには、植民地主義的な力学を想起させ得る解決策の可能性(例えば、ツバルが安全保障パートナーシップに関する完全な自治権と引き換えに、オーストラリアへの移住パスを得る事例)などがある。

開発パートナーの存在が果たす役割も取り上げられ、太平洋地域におけるオーストラリアと米国に対する脅威としての中国の存在と、気候影響や気候リスクに直面する太平洋島嶼国への支援提供者としての中国の存在との間にある相違が指摘された。

議論では、協力を強化するいくつかの既存の機会が取り上げられた。具体的には、ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略、気候資金投資の現状把握と太平洋レジリエンス基金の活用、ならびに地域的・国際的対話の強化などである。

協力や支援が太平洋のニーズを満たすために重要な点として、ドナーに見受けられる短期志向、国家機関を重視する傾向、そして既存の現地の構造を活用するよりも新たな構造を構築しようとする傾向を是正する必要性が挙げられる。それに代わる太平洋地域に即したアプローチとしては、気候解決策における世代サイクルの重視、レジリエンスに関する現地の解決策や選好(特に移転に関するもの)の活用、現地のニーズに合った気候資金の改革、そして精神的共同体や教会との交流が含まれる。

南・東南アジア

南・東南アジアに関する分科会の議論では、資源競争、気候リスク、地域安全保障について検討した。まず、地域アクターが何に向けて取り組むのかについて、共通の明確なビジョンを持つことの重要性を認識し、気候、平和、安全保障をめぐるさまざまな視点を検討することから始めた。

南・東南アジアのさまざまな国で同時に交錯して発生している気候リスクの膨大な複雑性と広がりが指摘され、また、地域のダイナミクスを把握し、対処するためにシステム的アプローチを用いることの難しさも指摘された。これには、メコン川を共有する国々の間に見られるような、越境資源や水の安全保障と地政学との交錯、現地コミュニティーが抱える課題や既存の緊張を悪化させかねない重要鉱物採掘の拡大、リスクにさらされている人々の経済的安全保障、さらには、すでに紛争に見舞われている災害脆弱地域への人道援助提供をめぐる困難の深刻化などがある。

こうした体系的気候リスクの性質を踏まえ、「全てを、あらゆる場所で、一斉に」という枠組みの中で気候リスクにアプローチすることの有用性に対する疑問が提起された。同時発生する複数のリスクに取り組むことは重要であるが、それと同様に、全てのリスクの中から同時に優先順位付けすることは、負担が大きく困難であることも指摘された。

気候と安全保障への取り組みにおける多国間および地域機関の役割が取り上げられた。国連は、国連イニシアチブにおけるその役割を模索するために気候安全保障メカニズムを立ち上げたが、十分に明確な制度的な位置づけを持っておらず、特に国連安全保障理事会(UNSC)からは活動領域として認められていない状況にある。

気候安全保障に対応する多国間機関による明確な対応が欠如している中で、これらの議論の拠点となる地域機関の役割が取り上げられた。東南アジアでは、この文脈において、ASEANのこれまでの(国連の支援を受けた)実績が注目され、東南アジアとASEANが気候、平和、安全保障に対する際立ったアプローチを有している点が認識された。こうしたアプローチは、外部から一方的に定義され押し付けられ、地域が受容することも実行することもできないような一般的な定義には、必ずしも整合していない。むしろ、支持と合意を徐々に形成することに重点が置かれている。

また、気候に基づく枠組みや視点のもとで、気候関連の全てのリスクと解決策にアプローチすることの有用性についても議論がなされた。これは、気候の枠で捉えられた問題は、必ずしも地域社会や政府の優先事項に一致せず、その結果、関与が制約される場合があるためである。また、気候関連リスクに対するレジリエンスの構築も、常に気候を全面に出した対応を必要とするわけではない。食料安全保障や水の安全保障は、気候影響を踏まえた計画立案を必要とするが、必ずしも気候対応として枠づける必要はない。議論では、協調を促し資源動員につながる場合には、気候変動を枠組みとして活用するべきだが、具体的な介入の枠組みは、現地コミュニティーやパートナー国政府の利益に即したものであるべきだと指摘された。

気候、平和、安全保障を推進するさらなる機会として、QUAD(日米豪印戦略対話)や地域開発銀行のような地域メカニズムの関与、市民社会および非国家アクターとの連携強化が挙げられた。

オセアニア

オセアニア分科会では、多くのコミュニティーやアクターがそれぞれの利益を見いだすことができる定義のスペクトラムとして、人間の安全保障を、安全保障の文化的・関係的定義、国家安全保障、地政学的利益と結び付ける形で、気候、平和、安全保障に取り組む方法を検討した。この議論を導いたのは、気候対応を進めるにあたって、誰の安全保障と利益に向けた対応を策定するのかを問わねばならないという視点である。

議論では、気候リスクをターゲットにしたプログラム策定の主要目標が特定された。特に、協力を促進するための共通のリスクや懸念に重点を置きつつ、関与を損ないかねない枠組みや解決策に関する規範的不一致を避けることが重視された。これを踏まえ、気候リスクは、より包括的な観点から適切に定義され得ることが示され、それにより、機関や政府がリスクやレジリエンス対策における自らの位置づけを把握するとともに、現地の解決策や視点(先住民の知識など)を取り入れるために役立つ。それはひいては、市民社会のアクターと政府機関(特に防衛機関)との間の関与を築く機会を作り、災害対応時における協力に対して、より広範な利益をもたらすために役立ち得る。

この実現に向けた具体的な機会として、気候リスクへの中核的な対応を統合するメカニズムとして国別適応計画を活用すること(国連の「女性・平和・安全保障アジェンダ」を含む)、ならびに気候リスクに対するレジリエンスの強化を目的とした投資に重点を置くよう政府開発援助(ODA)を見直すことなどが挙げられた。

交錯する気候リスクに対し、より効果的に取り組むことができる地域的イニシアチブに資する情報を提供し、促進するために、地域機関間の協働の演習としてシステミックな気候崩壊をマッピングする可能性も取り上げられた。これは、地域機関や政府の間の議論を促進し、気候リスクやレジリエンスの優先事項に対する見解を押し付けることなく、各コミュニティーにわたって、気候リスクや脆弱性を共同で可視化していくプロセスとして想定された。

2026年後半にオーストラリアと太平洋諸国がCOP31を共同開催する可能性については、アジア太平洋地域における気候、平和、安全保障に関する議論を定着させる機会として取り上げられた。本ワークショップで特定されたイニシアチブは、COP31に向けて推進されるとともに、同会議を通じて前進させることができるとされた。特に、気候リスクに関する共同のマッピング・システムは、COP31に先立って着手することで初期的な成果を示しつつCOP31の会期中および閉会後も知識の精緻化と活動の推進として継続する。

テーマ別パネル: 太平洋地域における気候と安全保障の連関性

ワークショップの第2パネルは、気候と安全保障に取り組む実用的解決策とアジア太平洋地域における成功したイニシアチブから得られる教訓を検討することを目的とした。

パネリストらの議論では、気候移住、水の安全保障、平和構築の手段としての適応、文化的安全保障という四つのテーマが相互に結び付けられた。

地域における人道対話センター(CHD)のプログラム実施事例を用いて、カンボジアとベトナム、バングラデシュとインド、タイとミャンマーの間に見られる国境を超えたダイナミクスから、実践的な教訓を引き出した。CHDの取り組みは、紛争影響地域における気候変動に関する協力機会に焦点を当ててきたが、その経験からは、外部の視点から気候変動に焦点を当てるアプローチと、共通の環境問題を軸に共鳴を呼ぶコミュニティーレベルの課題との間の乖離を浮き彫りにした。気候はしばしば政治化され、また、政府にとっては比較的扱いやすいテーマである一方で、、強い共感を呼び協力関係を構築する可能性が高いのは、よりセンシティブなコミュニティーレベルの環境問題であることが指摘された。そうする中で、女性のほうが環境平和構築に関して関与を得やすいことが分かったが、これは必ずしもジェンダー・ダイナミクスに関するより広範な議論に結び付くわけではない。さらに、国家の統治が及ばない地域において、気候によって増幅されるリスクにコミュニティーがどのように対応するかをめぐる議論では、市民社会と信仰に基づくグループの関与を得る必要性、また、直接関与することができない政府や機関に代わる慈善団体の役割が強調された。

水の安全保障に関する議論では、大雨によって水が多過ぎるか干ばつのために水が不足する場合という、二重の問題が起こり得ることが強調された。これは、現地レベルでは水に関するストレスがすでに生じている隣接コミュニティー間に存在する圧力を増幅させる恐れがあるが、国家間紛争を直接引き起こしている事例は見られていない。また、水をめぐる緊張は、紛争のようなネガティブな結果だけではなく、協力といったポジティブな結果をもたらす強力な証拠も見られる。しかし、明らかな紛争がなくても、水不安による影響を最も受けた人々、とりわけ女性たちに対する暴力は、水ストレスが悪化している時期に増大することが指摘されている。太平洋島嶼国は、特に低地の環礁国は水不安が最も大きい国々に含まれており、また、環礁島で進行する都市化により海水淡水化への依存度が高まっていることが指摘された。水の安全保障を強化するための適応策は極めて重要であり、太平洋諸島民が出稼ぎと送金に依存するのではなく、自身のコミュニティーに残ることができるようにするために必要な投資であるとされた。

文化の安全保障を、特に太平洋の文脈において理解し、それに基づき気候レジリエンスに関する計画を立案することの役割が検討された。例えば、自己に重点を置く西洋的なレジリエンスの哲学と、集団主義的な性質を持ち、人と土地(「ヴァン」)の不可分の結び付きに根差した太平洋の文化との間に認められる相違が指摘された。こうした哲学の違いは、リスクにも機会にもなり得る気候変動の傾向に関する彼らの知見や視点を生かす形で、太平洋のコミュニティーに関与しようとする際の課題となり得ることが示された。太平洋のコミュニティーにおける集団的な適応を保証するとともに、土地そのもの(「ヴァヌア」)に基づく文化的安全保障へと広がる解決策を考慮していくべきであると提案された。

最後に気候移住と安全保障の交差に関する議論が行われ、バングラデシュ南西部の国境地帯で見られる事例を通じて、既存の政治的ダイナミクスや国境にまたがる問題に加えて、気候変動によって生じる越境的な圧力に対処することの難しさが示された。バングラデシュ南西部は紛争地帯ではないが、それでも高レベルの暴力が発生している。しかし、国境の安全保障問題化は必ずしも安全の向上を高めてはいない。バングラデシュは、サイクロンのリスクから洪水まで過酷な気候ショックにさらされているうえ、ダムに囲まれたデルタ地帯で、インドとの国境をまたぐ淡水の流量管理に大きく依存している。これらの国境地帯にあるコミュニティーのレジリエンスにとって最大の課題となっているのは、レジリエンスと安定性に対する彼らのニーズが政府によって満たされないという点だ。これは、腐敗や不十分な社会的保護に起因する場合もあれば、浸食などの気候影響の増大によって土地が甚大な被害を受けた人々に対し、補償または代替地を提供できていないことにも起因している。

セッションの最後に、気候-紛争の「ホットスポット」を特定しようとする取り組みは概して成功しておらず、気候関連の紛争は、紛争がすでに存在する地域において発生する可能性が高いことが指摘された。この点は、セッションを通底する問題意識を浮き彫りにするものだった。すなわち、気候-安全保障の問題に対処するには、現地に根差した問題の定義、統治の実態への留意、そして、環境的圧力、移住のダイナミクス、働きかけの対象であるコミュニティーによって定義された文化的安全保障を結び付けるプログラム策定が必要だということである。

分科会2: テーマ別重点領域

ワークショップ第2分科会では、アジア太平洋地域における共同プログラミング・イニシアチブに向けたさらなる提言を導き出すために、以下の三つのテーマからなる重点分野を検討した。

  • 気候安全保障の防衛・外交政策への統合
  • 食料安全保障とサプライチェーンの途絶
  • 災害リスク低減と紛争予防のための地域協力

気候安全保障の防衛・外交政策への統合

気候安全保障を防衛・外交政策に統合する上での課題と解決策が検討された。特に、安全保障機関や外交機関は本質的に柔軟性に欠けることが多く、優先事項が競合し、しばしば事後対応的になりがちである点が指摘された。さらに、気候によって増幅されたリスクへの対処に必要な協調の範囲と規模に十分に対応できない制度的な慣性も存在し、それがいっそうサイロ化したアプローチをもたらしている。また、計画立案のための気候予測で直面するさまざまなタイムラインや不確実性のレベルに十分対処できない場合が多い。こうしたサイロ化と不確実性への対処の困難さが相まって、気候と安全保障に関する政府声明における具体性の乏しさにつながっている可能性があると議論された。

これらの機関の関与をより効果的に得るために、考慮するべき二つの点が挙げられた。防衛機関や外交機関は、既存の政策上の優先事項という枠組みの中で問題が提示され、理解される必要があるが、気候と安全保障について議論することで防衛機関や外交機関が持っている戦略的関心や脅威の認識を明確にする助けとなるべきだとされた。そのための有益な教訓が、参加者の経験から導き出された。例えば、気候と安全保障を明示的な議題として取り上げるのではなく、気候と安全保障のテーマに関連する共通の関心事項を明らかにし、これらのテーマに対する対応を制度化することによって、政治的圧力の影響を受けにくくするといったことだ。

気候関連の安全保障の成果について、共通の、しかし適応可能な定義、明確な価値提案と投資利益を中心とした定義を定めることが、国内機関内に協調をもたらすだけでなく、各国政府、地域組織、市民社会の間の協力、パートナーシップ構築、社会的受容を促進する手段になるとして論じられた。

共同プログラミングの主要な機会として、アジアおよび太平洋地域における防衛および外交政策のアプローチを対象に、気候-安全保障関連の成果に対する共通の関心領域を明らかにするためのギャップ分析の取り組みが特定された。そうすることで、たとえサブ地域レベルであっても、共通かつ適応可能な定義を構築することができ、そのうえで地域間の相互の関心領域と結び付けていくことができるとされた。これは地域の気候安全保障対話に貢献し得るほか、そうした対話と並行して実施されることで、そのような対話の機運を高めることにもつながるとされた。

気候安全保障の防衛・外交政策への組み込みを拡大するための追加的提案としては、不確実性の問題を管理するためにシナリオプランニングの活用を強化すること、気候関連の安全保障リスク管理へ向けた作戦、活動、投資を開発するための共通作戦状況図を策定することなどが挙げられた。マッピングツールなどの科学技術へのより堅牢な投資も、有効な解決策と見なされた。災害多発地域における防衛政策を見直し、防衛用途におけるグリーンテクノロジーの適用強化、アジアおよび太平洋地域における適応策を支援する政府開発援助の拡大なども提案された。最後に、気候と安全保障に関する関与について共通のレッドラインをすでに確立している既存の多国間の取り組み、例えば「未来のための協定」などが、これまでのコンセンサスに基づく議論を十分に活用する機会として強調された。

食料安全保障とサプライチェーンの途絶

グループは、気候、平和、安全保障の問題が食料とサプライチェーンの安全保障を通じていかに交差しているかを検討し、食料安全保障を地経学の一部として位置付けた。議論では、共通の食料安全保障の途絶に関する課題を仲介および管理すること、どの国が最も危機に近いかをマッピングし、現地の状況に合わせた対応を策定すること、そしてサプライチェーンのニーズを、供給途絶の高度な監視、技術の適用、資金供給と組み合わせていくことにおいて、地域機関の重要性が強調された。

水、食料、エネルギー不足を引き起こす気候ショックは、紛争や市場に波及する政策対応を引き起こす。2007~2008年の危機は、これを如実に示している。干ばつによってインドの小麦生産量が減少し、その後に輸出が禁止され、世界の米価格は3倍に上昇、最大2億人が食料不安に陥り、60カ国で暴動が発生した。こうした事態を受けて、ASEANと日本が備蓄米を放出するに至った。また、近年のスリランカ(経済的混乱のさなかの化学肥料禁止が生産量の急激な低下、食料不安の広がり、政権交代を招いた)やバングラデシュで起こった危機は、食料不安による紛争の「入り口」が、他国よりも近い位置にあることを想起させる例として言及された。

課題は、社会集団間における不均等な影響、農業者による市場情報や技術への限定的なアクセス、固定化した慣行(水集約的な作物など)、過剰生産による食料廃棄など、多岐にわたる。エジプトとチュニジアにおける政策の事例が挙げられた。

ガバナンスについては、食料価格の変動性への対策を支援する国際的な仲介組織の可能性が指摘されたが、世界規模のツールは限定的である。国連食糧農業機関(FAO)は輸出禁止に関する権限がない。世界貿易機関(WTO)には早期警報制度は存在するが、その遵守は困難である。G20の農業市場情報システムは透明性を改善したが、任意参加である。多くの国が危機の際は内向きになることから、多国間解決よりも地域的アプローチのほうがより現実的かもしれない。

提案されたアプローチとしては、技術や実践の変更(ASEANガイドライン、農業最適化/適応に関する東アジア・アセアン経済研究センターの取り組み、「スマート農業」とEコマースをつないで生産者が適時に市場シグナルを受け取れるようにすること)、食料供給源の多様化、そして南アジアにおいては企業による集約よりも協同組合を強化することなどが挙げられた。さらには、湾岸諸国による食料確保のための海外農地取得、特許に基づく独占により小規模農家が周縁化されることへの懸念、適応策を支える気候資金の必要性などが取り上げられた。

災害リスク低減と紛争予防のための地域協力

セッションでは、地域協力が災害リスク低減と紛争予防をいかに強化し得るかに重点が置かれた。また、暴露の規模の甚大さ、限定的な国内能力、多大な資源を動員する必要性、そして多くの場合コミュニティーではなく援助側の優先順位に沿った外部援助の政治利用や戦略的利用といった、根強い問題が取り上げられた。全体的な緊張の要因として、援助は不可欠なものであってもレジリエンスを損なう恐れがあること、外部責任と併せてコミュニティーの自主性が守られなければならないこと、援助側の戦略的利益がニーズを歪める恐れがあること、そして、中心的任務は「良い支援」とは何かの定義であり、現地コミュニティーが現に何を望んでいるかに沿った多国間支援の構築であることが挙げられた。

参加者らは、災害後の支援が、意図せずに伝統的な対処方法(食料の備蓄や親族関係に基づく移動など)を弱め、依存を生み出す恐れがあることを指摘した。また、問題の定義を現地に根差したものにすることの重要性(例えば、ツバルのような場所では「避難」とは拡大家族のネットワーク内での移動を意味する可能性がある)や、「災害リスク低減」を、コミュニティーが理解し自らのものと受け止められるレジリエンス志向で建設的な言葉遣いへと捉え直すことの必要性が強調された。同時に、全ての責任をコミュニティーに転嫁することには注意が必要であると警告された。「良い支援」は、依存を深めることを避けなければならない。地域的に、協調メカニズムは存在するが(例えば太平洋の資源グループや実務展開枠組み)、その受け入れにはむらがあり、リスク低減というアジェンダが対応重視の思考に陥ってしまう恐れがある。

地政学的潮流は、協力を複雑化する。太平洋地域がCOPに先立って積極的に声を上げているのとは対照的に、オーストラリアは化石燃料開発を継続し、パリ協定のルールブックの柔軟性に依存していることは、摩擦を生むと同時に、梃子(レバレッジ)ともなっている。また「化石燃料を地下に残す(leave it in the ground)」といった急進的な立場は、国内政治の制約に直面しており、一部のアクターは漸進的なアプローチや太平洋諸国のパートナーとの連合形成へと押し出されている。

共同イニシアチブの事例は、強固な地域的エトスを強調するとともに、外部から持ち込まれたパラダイムを捨て去ることの必要性も浮き彫りにした。太平洋の対談者からは、現地語には「脆弱性」という言葉はないが、コミュニティーはその「低減」を求めているとの指摘がなされた。“Renewing Oceania”のような取り組みは、不十分な枠組みを超え、レジリエンス教育を現地の哲学や倫理に再び根付かせることを目指している。また、「両面(both-and)」アプローチが強く求められた。すなわち、各国政府は、汚染者責任を追及し、損失と損害への支援を進めるともに、既存のコミュニティーのレジリエンスを認識し、それに資源を投入するべきである。実務的な摩擦は依然としてあり、援助提供者は、分散的なコミュニティー施設より中央集中型の目立つ資産(例えば、首都の病院)に資金提供するほうを好む。公式な支援を何カ月も待つ間、コミュニティーが医療や救援を自ら組織することも多々ある。世界銀行の“Jobs for Nature”プログラムは、設計の落とし穴を如実に示した。個々の金銭的インセンティブがコミュニティー主導の慣習的なマングローブ保全作業を押しのけてしまい、最終的に計画は撤退した。

今後に向けた提案としては、政策立案者の再教育および研修を行うこと(「損失と損害」基金からの資金調達)、現地ファシリテーターを支援してコンテクスト固有の知識(作物の多様性など)を共有すること、高リスクのコミュニティーを対象に適切な規模の支援を行うことで、外部から持ち込まれた専門知識への依存を低減することが挙げられた。オーストラリアのファースト・ネーションズ(先住民)と太平洋コミュニティーの交流や地域主導で運営される市民議会といったアイディアは、それらが文化的な意思決定プロセスに即し適切に資源が提供されるのであれば、コミュニティーと政府の多様な優先事項を調整する上で役立つだろう。

2日目│地政学パネル: インド太平洋地域における気候安全保障に関する戦略的協力

ワークショップ2日目のオープニング・ディスカッションでは、アジアおよび太平洋地域における気候と安全保障への対応を形成するうえで地政学が果たす役割に重点が置かれた。これには、気候変動の影響が地域の地政学をどのように形成しているか、建設的なミドルパワーが果たし得るリーダーシップの役割、大国間競争が気候に重点を置いた地域内協力に及ぼす影響、そして、安全保障に対する気候リスクをめぐる既存の地域協力プラットフォームについて議論された。

パネルの冒頭では、レジリエンスに関する有意義な関与と協調は、国や地域の利益に気候変動がどう位置付けられるのかについての相互理解にかかっていることが強調された。オーストラリアは太平洋が大国間競争の場であり、気候影響はそれを複雑化させる可能性があると捉えているが、それとは対照的に、太平洋島嶼国はリスクの源泉としての気候影響に重点を置いている。この相違は、オーストラリアが太平洋諸島にとってのパートナーと見なされることへの関心と、太平洋側の安全保障の利益との間でバランスを取ろうとする一方で、化石燃料の開発と輸出を維持しているという点に表れている。

比較的なアプローチにより、この相違が明確に示された。ドイツとスウェーデンでは、気候安全保障は外交問題に含まれている。フランスは、アフリカその他の地域におけるリスクへの対処に重点を置いている。ニュージーランドは、国防省の社会的受容(そして防衛関連活動による排出削減)の一環として災害援助に重点を置いている。また、気候、平和、安全保障(人間の安全保障に根差したもの)に対する共通の理解に達しようとするアフリカ連合の努力は、共通の統一的な立場を築く建設的な事例として示された。そのような立場から、EUのような外部パートナーと政策・プログラム上の明確な利益を調整し、主張することもできる。これは、気候と安全保障の唯一の定義は必要なく、当事者間の明確な相互理解があれば良いということを強調する一助となった。

オーストラリアが太平洋諸国とCOP31を共同開催する機会は、関与をいっそう深め、有意義なものにするきっかけになり得ると指摘された。

気候と安全保障を大国間競争の視点で捉えることについて、さらなる検討がなされた。競争をゼロサムゲームとして捉えるなら、気候と安全保障を関連付けることは不信を高め、協力を制限すると指摘された。しかし、大国間競争がもたらす戦略的不信は、議論の中で「相互確証レジリエンス」と呼ばれた取り組みを促すことができると主張された。これは、議論の中で、災害時および災害後に共通のレジリエンスを確保するよう調整された公的投資を指すものと説明された。この文脈で、不可避な米不足に備える事例が共有された。人道危機とその後に続く地域安全保障の崩壊が起こり得ることを考えると、こうした事態を回避することは全てのアクターにとって利益となるだろう。

この観点から、中国と米国のような競合国のデカップリングという考え方には異議が唱えられ、「デリスキング(リスクの軽減)」が支持された。競合国間のパートナーシップにより、集団的レジリエンスに寄与する協働が行われる機会を追求するためである。

協力を強化するメカニズムも検討された。議論では、ミニラテラル(少数国間)フォーラム(PIF、ASEAN、QUADなど)が、多国間機関に見られる議論や進展への障害を回避する上で重要な役割を果たし得ることが検討された。特に、トラック1.5および2の対話を通して、協力と相互理解を構築し、いわゆる「バックルーム」での支援を得られる可能性がある。

その後パネルでは、ボエ宣言、太平洋地域気候移住枠組み(Pacific Regional Framework on Climate Mobility)といった太平洋主導のイニシアチブを支援し、関与する機会が取り上げられた。ボエ宣言行動計画の改訂は、太平洋におけるプログラムに関与し、情報提供し、インプットを提供するうえで特に重要な機会として指摘された。太平洋におけるプログラム実施の優先順位として、リスク評価の強化(誰がリスクに直面し、どのように対応するか)、リスクに対処するための技術やパートナー、プログラムを実施するための資金や資源、学習の機会などが挙げられた。相互理解を深めるための気候変動に関する南南協力の機会が強調された(例えば、都市移住に関するフィジーとバングラデシュの協力)。

気候変動がもたらす安全保障リスクに対処するメカニズムの策定を、パートナー間のさらなる協調と意識をもって進めることの重要性に関する重要な指摘がなされた。これは特に、太平洋諸国がイニシアチブを主導することが多い一方で、パートナーらは太平洋に介入するために独自のイニシアチブを策定しており、その結果、そのようなパートナーに対する太平洋島嶼国のネガティブな認識が生じているという状況を背景に指摘された。地政学的圧力は、気候安全保障を構成する複雑な枠組みと見なされた。一部のケースでは、太平洋島嶼国は太平洋における戦略的金銭的利益をめぐる外部の競争を利用することができるが、他のケースでは、一部の国が受け入れていないハードな安全保障のダイナミクス(例えばPacific Response Group)が加わることで協力が困難になる可能性がある。

気候と安全保障を明白な重点分野として捉えることと、気候への対処を安全保障問題化することに関する懸念について、重要な話し合いがなされた。気候変動が安全保障問題化され、防衛機関が活動の主体となっている国でさえも、政策対応によっては、人間の安全保障にネガティブな結果はもたらされておらず、むしろ資源と努力の強化によって防衛活動からの排出量が削減されているという証拠が示された。安全保障問題化に関する議論は、気候と安全保障がレジリエンスの哲学と人間、文化、生態系、国家、地政学的安全保障というスペクトラムのどこに位置しているかという問題にもつながった。

気候変動を活動領域と位置付けることへのイデオロギー的な反発は、気候関連リスクの低減を目的とするプログラムの制度的な推進力と持続性にとって障害になると指摘された。その立場から見ると、気候安全保障上の成果(例えば、災害への備え、エネルギー安全保障)に関連する中立的目標を軸に、長期的な取り組みを根付かせ、得られた知見を気候安全保障という概念に還元できる機関や個人と連携し、機会と課題を浮き彫りにすることが最善策であると指摘された。ウクライナ戦争のような大きな地政学的事象が起こっているにもかかわらず、NATOにおける気候変動への関心の高まりは持続していることが指摘された。なぜなら、NATOは組織として、気候変動の影響が同盟の安全保障上の優先課題に及ぼす問題となることを理解しているからである。

インタラクティブ・ワークショップ: 共同プログラム設計と行動ロードマップの策定

ワークショップの残りの時間は、政策立案者に向けた行動ロードマップとして策定および提示し得る共同プログラム構想の開発に重点が置かれた。そのためにワークショップを三つのグループに分け、それぞれが課題の可能性について議論した後、全体会に戻って構想の概要を説明し、議論を行った。これらの議論の結果を、グループごとに以下にまとめる。

アジアおよび太平洋における食料安全保障

このセッションでは、明確な行動プログラムが示された。すなわち、COP31に先立ち、気候変動がもたらす食料安全保障に関連したリスクへの対処に関する共同宣言の実現に向け、アジアおよび太平洋における活動や優先事項を調整することであると。

食料安全保障は、アジアおよび太平洋における核心的課題であるがゆえに、協調行動のテーマとして選ばれた。これは、気候、平和、安全保障に関するよりメッセージを簡素化・効率化し、連携、拡張性、および政策領域の包摂性の促進に役立つ既存の枠組みへと集約することができると考えられた(「女性・平和・安全保障」アジェンダのような関連重点事項を含む)。

これを推進するための活動として、次のようなことが考えられる。

  • オーストラリア、ASEAN、太平洋諸島フォーラムを通した知識交流機会の構築
  • 各地域の食料安全保障に対応する主要アクターの特定と、その役割・能力のマッピング
  • ケーススタディ、資金提供を受けた研究、奨学金、場合によっては学術誌の活用(特集号、または学術誌の新設など)
  • 知見を深め、政策立案に向けての演習と、気候、平和、安全保障研究手法に関する能力構築
  • 食料安全保障を「国が決定する貢献」および「国別適応計画」に織り込むことの検討
  • 世代間および若者の視点を取り入れたファースト・ネーションズ・コミュニティー(先住民族)と太平洋島嶼民との交流

これらの活動の成果とメカニズムには、アジアおよび太平洋における食料安全保障に関する出版物や研究を後押しすることと、これらを主要な知識成果物(気候変動に関する政府間パネル(IPC)報告書など)に反映、現地の食料安全保障の実情を政策に反映、食料安全保障と安全保障の枠組みが交差する部分を明確化する、などが含まれる。

この取り組み推進のための重要な手段は、強力なネットワークや実践コミュニティーの存在であり、それらが地域内および地域間における持続的な関与や活動の促進に役立つと指摘された(トラック1.5/2対話など)。気候安全保障専門家ネットワーク(Climate Security Expert Network)は、これらの問題に関する議論を促進し、情報提供する包括的手段と認識された。

太平洋地域の気候、平和、安全保障対話を支える実践コミュニティー

セッションでは、気候と安全保障に関する実践コミュニティーとパートナーの育成に焦点が当てられ、学びと振り返りを通して地域内および地域間の優先順位を明らかにするための協議的対話の必要性が強調された。

同グループの主な提案は、太平洋レジリエンス・パートナーシップのもとで、ボエ・パートナーシップに沿った、「平和の海」構想に寄与する気候と安全保障に関する実践コミュニティーを立ち上げることである。コミュニティーは、18の太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国から多分野の実務専門家を集め、気候関連の活動を促進して実務課題(移住、食料安全保障など)に関するワーキング・グループを推進する運営母体となる。考えられるプロジェクトとして、気候関連の問題がどのようにクラスターを形成しているかを特定するためのシステム・マッピング演習を、実践コミュニティーが決定する地理的重点に基づいて実施することなどがある。

ステークホルダー・マッピングを行ったうえで、実践コミュニティーを活用して外部パートナー(中国、インドなど)や関係機関(政府、安全保障アクター、市民社会組織、地域機関、メディアなど)と連携し、気候レジリエンスに関する共通関心分野をめぐる対話を支援することが考えられる。すべての潜在的なパートナーの間で、特に大国間競争をめぐる懸念に関して、枠組み、対話の性質、重点を管理する必要があるが、これは、多くのパートナーから支援とリソースを得る必要がある気候レジリエンスおよび適応策についていっそうの意識や知識を広めるために役立つ可能性があると指摘された。既存の地域的対話やその他のミニラテラル・フォーラム(ASEANの人道支援努力など)、インドネシア、インド、オーストラリアの間で行われる3カ国対話も、共通の気候問題への懸念について対話を進めるために活用できるだろう。

実践コミュニティーの存続を促進するために、その活動を支える事務局の準備と設立が必要である。事務局、およびPIF加盟国のための初期費用は比較的少額の投資と見なされており、支援的な非政府研究機関、慈善団体、多国間機関、または地域の政府のいずれかによる資金拠出が可能であると考えられる。議論では、ボエ宣言行動計画の策定に知見を反映させ、太平洋地域の諸機関からの賛同を得ること、また、2026年後半のCOP31に先行して議論を促進するため、2025年末までの設立を目指すことで議論がまとまった。

気候、平和、安全保障に対するサブ地域(小地域)協力の強化

このセッションは、画一的な設計を避けるためにサブ地域ごとの強みと課題を明らかにして、アジアおよび太平洋地域全体の枠組みに代替するものとして、気候、平和、安全保障に関するサブ地域間の協力を強化することを提案した。

これに関連する活動として、対話と協調を構築するために実務専門家のネットワークを持つ既存のサブ地域フォーラムからなる包括組織を定義すること、これらのネットワークが気候、平和、安全保障プログラミングに関するサブ地域ごとの強みと弱みをマッピングして連携するよう促すこと、実効的成果をもたらし得る関心の高い共通テーマ(食料、海洋、移住、資金、ジェンダー)に関する議論を優先すること、専門知識や知見の移転を可能にする学習ネットワークを構築すること、そして、2025年後半のボエ宣言行動計画の改訂や2026年後半のCOP31など、これらの活動の機運を高めるとともに、発足へ向けてスケジュールを調整する必要がある。

これは、アジアおよび太平洋地域における協調を強化し、サブ地域の利益を伝え、気候、平和、安全保障プログラムを世界的に推進する他のサブ地域フォーラム(アフリカ連合など)との交流拡大を促進するために役立つだろう。また、アジアおよび太平洋地域のパートナー間および内部でよりよく理解されている気候、平和、安全保障への取り組みに対する支援の構築にも役立つだろう。

これは、太平洋諸島フォーラム、ASEAN、南アジア地域協力連合の間の協力メカニズム(実践コミュニティーやネットワーク間の交流、トラック1.5/2対話など)の推進を目的として構想された。これは、アジアおよび太平洋地域全体に影響を及ぼす相互の懸念事項に関する地域全体の協力と協調を構築するとともに、積極的な関与のある組織(PIFなど)を生かしながら、他の地域組織の能力と関心を「底上げ」する可能性もある。

議論となりそうな共通の核心的利益や適応策の経験としては、食料安全保障、海洋安全保障、気候移住、海岸・海洋管理、気候資金へのアクセス、気候影響のジェンダー的側面などが挙げられた。議論では、これらのネットワークの重点は、有効分野での地域協力に置きつつ、実施や資金については現地主導で行うべきであることが強調された。これは、ある地域で成功したことが全ての地域で必ずしも成功するわけではない(太平洋から東南アジア、またはその逆など)ことを踏まえものである。

考えられる活動や成果としては、気候と安全保障に関する強みや課題のマッピング(気候と安全保障をどのように捉えるかなど)、地域フォーラムにおいてそれぞれの得意分野を学ぶ機会や共通の気候リスクへの政策対応に関する協議や知識移転の機会の設定などがある。これらの取り組みは、気候、平和、安全保障のみに話題を限定するのではなく、機関横断的に気候と安全保障に対する共通の中核的理解を浸透させることに重点を置くことが考えられる。

これらのネットワークが政府代表者と結び付き、情報提供する機会を確保することで、これらの活動による知識移転や政策策定に関するアウトプットが、サブ地域における気候レジリエンスの優先順位を方向付ける一助となる可能性が高い。集中的な職務配置や研修によって女性を登用することも、文化的理解を深め、取り組みを定着させるきっかけになるとして強調された。

運営方法としては、ミニラテラル・フォーラムを関与の拠り所として用い、外部パートナーも含めて自由で包摂的な参加ができるようにすることを軸とした案が挙げられた。COP31は、恐らく国連開発計画(UNDP)やアジア開発銀行(ADB)のようなパートナーの支援を得て、機運を高めて協働の道筋を切り開く結集点になり得るとして注目された。これらのネットワークの基盤およびサブ地域の優先事項は、既存のセンター(太平洋地域環境計画局(SPREP)および他の気候/先住民知識に関するハブ、ASEANの気候関連組織など)を基盤として構築されるべきであり、そのうえで知識やネットワークの不足を補うために追加的パートナーを特定することが考えられる。

閉会の挨拶

ワークショップの最後の議論が行われ、アジアおよび太平洋地域における多様性への認識が必要であると強調された。サブ地域に焦点を合わせることで、政策研究や優先事項を個別のニーズや機関に合わせて策定し、そのうえで、それらをより高いレベルの枠組みで再統合して地域間協働のための広範な枠組みに生かすことができる。

アジアおよび太平洋地域にまたがるニーズと視点の多様さは、レジリエンスや関係性の哲学など多くの考え方と関わる必要があることを示した。このことから、気候変動、さらには気候変動や気候政策が文化と精神性に及ぼす影響に関する研究へ南南協力を進めることの重要性が改めて示された。

執筆者

マイケル・コページは、CoTerranのディレクターであり、気候と安全保障に関するアドバイザーである。2022年から2024年までオーストラリア戦略政策研究所で気候・安全保障政策センターの研究を率い、インド太平洋地域の気候変動がオーストラリアに及ぼす影響の戦略的意味に重点を置いていた。気候変動と安全保障の関係を理解することに長年にわたり関心を抱いている。それ以前は、2012年から2022年までカナダ政府に勤務し、主要な気候政策に従事した。その一環で、2016年と2020年にカナダの国家気候緩和計画の策定を支援したほか、国家気候適応政策の策定を補佐し、意思決定者による気候データの理解と活用を支援する気候関連サービスを提供した。

ジャナニ・ビベカーナンダは、戸田記念国際平和研究所の上級研究員である。またドイツ・ベルリンに拠点を置くシンクタンク adelphi の気候外交・安全保障プログラムの責任者を務め、気候変動と平和構築を専門としている。18年間にわたりさまざまな地政学的地域において気候変動、平和、安全保障に関するフィールド研究者、実践家、政策アドバイザーとして活動しており、このテーマに関する成果を“Nature”などの学術誌や“Economist”、“Guardian”、“der Spiegel”、BBCなどの世界的メディアに幅広く発表している。adelphiに加わる前は、インターナショナル・アラートで環境・気候変動・安全保障部門の責任者を務めた。それ以前は、プラン・インターナショナルおよび国連開発計画(UNDP)でアドバイザーの職に就いていた。

謝辞

両執筆者は、本報告書の作成を支援してくれた全ての人々、とりわけアフィーヤ・アカンド(Afeeya Akhand)、イザベル・ボンド、リア・シバタ博士に心より感謝する。